第17回 CITES騒動:資源研究者の責任と限界

 大西洋クロマグロの漁獲を事実上禁止することになるモナコ提案は、大方の予想を覆し、圧倒的多

数で、あっさりと否決された。そして、このゴタゴタを肝に銘じて、大西洋クロマグロの資源回復に加盟

国が真摯に取り組むことが必須であると巷で喧伝されている。大西洋のマグロ資源を管理している国

際漁業委員会(ICCAT)の政府間会合では、クロマグロの漁獲量を大幅に削減するべきだという科学

者の勧告を無視して、高いレベルの漁獲を許容し続けたし、フランスをはじめとする地中海でクロマグ

ロ漁業をしている加盟国の度重なる違法漁獲も後を絶たなかった。これが、CITESという絶滅危惧種

を扱う全く異質な組織の介入を招いた、というのが大方のマスコミの報道である。その報道に異論は

ない。

 一方で、モナコ提案には、研究者も大西洋クロマグロは絶滅の可能性が高いことを指摘していると

している。しかしながら、はっきりしているのは、ICCATでも、CITESが言うところの種の絶滅などという

ことを、研究者は考えてもいないことである。確かに親魚資源の減少が明確にみられるが、これをモ

ナコが言うような絶滅に結び付けるわけにはいかないと思っている。大西洋のクロマグロがCITESで

いう絶滅危惧種に該当するかどうかを判断する科学者レベルの会議が、今回のCITES会議の前に2

回持たれた。一つはICCATの科学者間の会議、もう一つは国連の機関(FAO)でICCAT以外の研究

者も招聘して行った会議である。基本的には、ICCATの会議で重要な計算や検討は行われている。

FAOの専門家会議では、このICCATの報告を受けてさらに論議をしただけで、新たな展開はない。こ

の二つの会議の結果は、あたかも大西洋クロマグロがCITESで扱うほど絶滅に瀕していると誤解され

る見解を出したことが今回の騒動の原因の1つであると私は思う。特にICCATの報告は、いろいろな

計算をやってその結果を長々と説明しているが、肝心のCITESでいう種の絶滅に該当するのかどうか

について、何ら結論を示していない。これでは、恣意的な解釈を許し、絶滅の危機をあおる根拠に使

われてしまう。SCRS(ICCAT科学委員会)はもっと毅然たる自信を持った結論を示すべきであった。さ

らに、漁業以外の環境変動による資源変動をもっと考慮すべきであった。つまり、クロマグロ資源は

漁業とは関係ない自然変動でも、資源量が大きく変動するので、漁獲が始まる前の資源量(いわゆ

る処女資源)が歴史的に見て最大であったなどという保障など全くなく、むしろ、現在の資源量より、

低かった可能性さえ充分にある。そうすると、この種の基準をあてはめて絶滅の可能性を論ずること

は、全く意味のないことで、研究者としてすべきではなかったと思う。

 とはいえ、研究者の責任をあまり責めることは酷である。なぜなら、研究者にろくなデータしか渡さず

に正確な資源評価を期待するのは、どだい無理なことだからだ。現在のICCATにおけるクロマグロに

関する基本統計は極めて信頼性に乏しい。加盟国が、正確な漁業統計を科学委員会に報告すること

が、必須となることを強調しておきたい。