第18回 地中海クロマグロ漁の原点−カルロホルテ再訪

 イタリアのサルジニア島に隣接して存在するサンマルコ島と言う芥子粒のような小島にカルロホル

テという町がある。この町は夏の間だけ保養地となっていて、ヨーロッパ各地から観光客が押し寄せ

る。ここでは、毎年、6月にマグロ祭りが行われ、種々の出店などが港ぞいの通りに出たりしてにぎわ

う。目玉は、このサンマルコ島にあるマグロの定置網に入るクロマグロである。カルロホルテに来た

のは、7年前に一度、そして今年で2度目であり、いずれもマグロ祭りの際に行われるサルジニア自

治州主催のクロマグロのシンポジウムに講演者として招待され出かけてきた。

 この島の定置網について少し紹介しよう。この島にある定置網は、数百年前から行われており、今

回も以前来た時とあまり変わりない。今は、ジェノア出身の網元が経営しており、以前は、今の10倍

くらいの2000トンほど獲った年もあるとのことである。定置の規模はそれほど大きい方ではないが、

マタンサ(と殺)と呼ばれる網起しの時の漁獲の模様は壮観である。これを見ようと、観光船がお客を

わんさと乗せてやってきて、さながら、闘牛の観戦をしているような風である。この定地網では、今は

やりの畜養は一切しない、すべて、水揚げして、生鮮で出し、残りは冷凍しておいたものを、冬場の閑

散期に缶詰めにするという。今の10倍ほどの規模で缶詰を製造していた頃の大釜、煙突、あき缶な

どが、まるでポンペイの遺跡のように放置されている。今、小規模に作られている缶詰は、超高級品

で、贈答用の正真正銘のオリーブオイル漬けクロマグロとなる。缶詰にも、赤身、中トロ、大トロの区

別があり、もちろん大トロが一番高い。最近は経営の多角化で、マグロが入ったときには、マグロと

一緒にダイバーを潜らせて、マグロを身近に見せている(料金は一人7000円ほどで50人近く潜らせ

る)。卵巣や内臓の塩蔵品は、漁師の取り分となり、有名な卵巣の塩漬け(ボッタルガ)や心臓、胃袋

なども同じく塩乾品として利用されている。

 ワシントン条約会議による「大西洋クロマグロ絶滅危惧種指定」提案で大揺れであった今年は、地

中海のクロマグロの漁獲枠が大幅に減らされて、イタリアも大変であった。しかしながら、定置網は伝

統的な価値と実績が評価され、まき網のような漁獲量の削減はなかったようである。(モロッコの定

置網では、20ケ統ほどある現有勢力を15ほどに削減したうえに、割当て量以上に入ってきたクロマ

グロを数百トンも逃がさなければいけなかったようである。)まき網業者は、身から出たさびとはいえ、

大きな打撃を受けざるを得なかった。この平和で美しい小島の定置網が、7年前とあまり変わらず、し

かも、単に生鮮マグロを生産するだけでなく、観光客を積極的に取り込んで、水揚げを見せたり、ダイ

バーをマグロと一緒に泳がせたり、超高級品の缶詰の生産を本格的に再開したりと、多様化した様子

を見て、安心するとともに、研究者として、資源の持続利用への責任を痛感させられた旅であった。