第2回 日本におけるクロマグロの蓄養と完全養殖

 先日、奄美で開催されたクロマグロの生態と養殖に関する近畿大学主催のシンポシウムに出かけ

てきた。200人を超す参加者の熱気のなかで、目覚しい研究の展開に聞き入ってしまった。思い起

こせば、クロマグロの種苗生産に向けた取り組みが始まったのは、私が水産研究所に入所した197

0年ごろのことであった。当時はみんなほとんど何にもわからないままではあったが、日本の遠洋マ

グロ延縄漁業の漁獲量が頭打ちから減少に転じたころで、これに危機感を抱いた水産庁の肝いり

で、近畿大学の故原田教授を中心に大学、水研、水試などが参加し、将来資源が減少したときに人

工的生産した種苗を天然資源に添加して、資源量のかさあげをしようという意図で始まった。その後

30年ぶりに最新の研究結果を聞くことが出来たわけである。

 いくつかの研究トピックスの紹介のまえに、クロマグロ類の蓄養について世界的に概観してみよう。

クロマグロの蓄養による年生産量は世界的に見ると、約3.5万トン(地中海:2.5万トン、メキシコ:

7千トン、日本:3千トン、注;このほかに豪州のミナミマグロが9千トンある。クロマグロとミナミマグ

ロ以外のまぐろ類の蓄養はおこなわれていない。)で日本の生産量は少ない。しかしながら、研究面

での成果となると、100%日本の業績で、外国ではIATTCのキハダに関する研究を除くとゼロであ

る。IATTCの研究も日本の資金と共同研究で達成されたものである。日本のクロマグロ蓄養は生後

3ヶ月位の200−500グラムのヨコワと呼ばれる幼魚(引き縄でとられる)の飼育から始まり、2−3

年の養成を経て、30−50キロにして出荷している。これほど小さい種苗からの長期養殖は、小さい

ものでも20−30キロ、100キロ以上もある成魚を対象とし3−5ヶ月の短期しか蓄養しない外国と

比べると日本は特異である。この特異性の理由の説明は、次の機会にして今回は述べないことに

する。

  近畿大学を中心とする研究の最大の成果は、数年前に達成したクロマグロの完全養殖技術であ

る。完全養殖というのは、少なくとも2世代にわたる生活史を完全に人工飼育下で行うことである。ク

ロマグロは成熟するのに5年位かかるのでこれを達成するには最短でも10年以上かかる事になる

。クロマグロは毎年産卵するわけではないし、孵化後2週間ぐらいで、95%以上は死亡する。さらに

、その後、共食いが始まり、生簀のフェンスに衝突して死ぬ。その他にも、発育段階に応じて適宜餌

を変えて行かねばいけないし、台風や大雨もあるから、完全養殖を成し遂げることが、以下に困難で

あるか想像していただけると思う。これらの困難な点を克服して今日にいたったわけである。完全養

殖のクロマグロはすでに近畿大学で販売の試みられており、年間200尾ほど販売されている。まだ

採算が取れるところまで行っていないようであるが、企業化に向けて研究が進められている。


  今後クロマグロの蓄養は漁獲規制の強化で、そうのびることは無いと思う。しかしながら、完全養

殖技術が企業化されたら、資源培養方技術が諸課題が克服されたら(放流魚の遺伝学的多様性の

確保の問題等)、さらに、200グラム級の小型ヨコワの活けこみ技術がまき網を使って確立されたら

どうなるか?

  その時は、クロマグロ類をめぐる漁業・管理のみに留まらない革命的変化がマグロ漁業に起こる

可能性があるのではないかと夢想している。