第23回 中西部太平洋のマグロ資源は大丈夫か 望まれるFADの規制強化 (下)

 FAD(※)の規制強化は、もっぱら、まぐろ類の漁獲に関してのみ論議されているようである
が、もう一つ重要な問題がある。FAD操業にも起因するとみられる一部のサメ資源の資源状態悪化に対する懸念である。マグロ漁業と関連の深いサメとしては、ジンベイザメがCITES(絶滅の危機に瀕する種の保護を目的とするワシントン条約)のリストU(国際取引規制種)に掲載されたことは記憶に新しいが、ジンベイザメは、大きくてカリスマ的なところがあり、宣伝対象として利用価値がある上に、科学的なデータがほとんどないことから、環境団体が目を付ける格好の材料となった。しかしながら、これより実質的に危惧されるのが、延縄でも漁獲されるヨゴレとクロトガリザメである。延縄で漁獲されるこれら2種の釣獲率は急速に減少しており、来年のCITES会議で、リストT(漁獲禁止)に提案される可能性があると思われる。サメ漁獲のやり玉に挙げられてきたのは、延縄漁業であるが、これら2種はまき網漁業、特にFAD操業でも混獲される。 さらに、これら2種の釣獲率の減少が顕著になったのは、1990年代後半ころからで、これはFAD操業の増加の年代とほぼ一致する。 一回当たりのFAD操業で漁獲されるこれらのサメの漁獲量は少ないが、FADの操業回数はとてつもなく多いし、FAD操業によるサメ類の漁獲記録は、極めて不正確である。これら2種のサメの急速な釣獲率の減少は恐らく、延縄だけでなくまき網のFAD操業とのダブルパンチが効いているのではないかと懸念している。
 一方、日本もオブザーバーをまき網船に乗船させて混獲魚種の調査をしており、まき網のデータも含めた解析が望まれる。サメの資源評価といっても、現状では、まぐろ類・かじき類の資源評価で手いっぱいであるから、すでに決められた数種のサメ類の資源評価だけでも、本格的に取り組む余裕はないであろう。マグロ漁業の混獲問題は、対処の仕方を誤ると、流し網のビンナガのように、本命のまぐろ類の漁獲が危うくなると言う大変厄介な問題であるのでおろそかに出来ない。研究者の悩みが尽きないところである。
 FADの禁漁強化には、困難な問題がいくつかある。南太平洋の島国では、自国の漁船が彼らのEEZ内でのFAD操業に大きく依存している。また、日本に特有の問題としては、節用のカツオはFAD付きのものでないと、脂が多すぎて使えないという事情もあるようである。しかしながら、何とかこれらの問題の解決・妥協を図れば、FAD操業の大幅な規制強化は、まぐろ類だけでなく最近問題が多くなってきたCITESがらみのサメ類に関しても、損失よりも利益の方がはるかに大きいのではないかと筆者は思う。
(※FAD=まき網漁船が集魚のために使う人工浮き魚礁)