第3回 大西洋のクロマグロ資源管理

 大西洋のクロマグロの漁業規制が強化された。2006年末のICCAT(大西洋のまぐろ類の資源管理

を行う国際機関)の年次会議で、地中海を含む東側(資源管理のため大西洋の中央で東西に2個の

資源を別々に管理している)の資源について、許容漁獲量(TAC)を4年かけて2割減少させ、主要漁

業について半年程度の禁漁期をもうけること、一部漁業を除いて30キロ以下の小型魚の漁獲の禁

止等が決定された。しかしながら、ICCATの科学委員会の勧告では、TACは2007年から約5割減で

あったから、科学的に見れば、削減は極めて不十分である。大西洋の東側クロマグロの規制は、こ

の10年程、ICCATでは大きな論議となってきたが、それ以前は種々の問題点を抱えながら、論議の

俎上にあがることはそれほど無かった。それでは、近年東側クロマグロに焦点が当てられてきた原因

は何であるかについて、触れてみたい。

 大西洋のクロマグロ資源は、資源が1個なのかそれとも東西で2個あるのかを巡っていまだに科学

論争が続いており、これに加盟国の行政的思惑が絡んで、資源構造に関する考え方が歴史的に変

遷してきている。研究初期の1970年代中ごろまでは、1個の資源と見る考え方が優勢であった。これ

は、標識放流結果からクロマグロが大西洋を東西に回遊していること(渡洋回遊)が大きな根拠とな

っている。ところが、米加沿岸域を中心とする西側海域の資源状態が急速に悪化し始めると、米国は

自国の周りの資源(西側クロマグロ)は東側と切り離して規制をするように主張しだした。当時の漁業

が大西洋の東西に偏在していたこと、また、クロマグロの渡洋回遊は限られているという現在の知見

からみると誤った科学情報をその当時の科学委員会が本委員会に与えてしまったこと、ヨーロッパ諸

国は厳しい規制に反対であることなどもあり、とにかく西側だけ外して資源管理をするようになってき

た。当時の言葉で言うところの“東西分理論”である。私他少数の研究者は、広域をカバーして操業し

ている延縄漁業の解析等から、東西のクロマグロの交流はもっと高く個別の管理には合理性がない

と反論し続けてきたのであるが、全体的な意見にはならなかった。

 ところが、その後、米国などが西側クロマグロの厳しい漁獲規制を続けてもその資源状態の回復が

思わしくないのは実は東西交流がもっと盛んで、ほとんど野放しでクロマグロを捕り続けている地中

海を中心とする東側漁業のせいであると言い出した。これは長期にわたり実際の回遊経路が詳細に

わかる記録型標識の使用によりここ10年ぐらいで、東西交流がかなり頻繁にあると判明したからであ

る。我々に言わせば、そんなことは記録型標識の使用をする前から推論されていたことであるが、実

証的事実とまでは行かなかったので評価されなかった。ちなみに、記録型標識で明らかにされたクロ

マグロの回遊経路と回遊タイミングは延縄漁業の解析から我々が推定したものと驚くほど類似してい

る。

米国は当初は、1990年ぐらいから北太平洋中央部で日本が新たに開発し漁場で取られるクロマグロ

(資源解析では東側クロマグロとして計算される)が西側クロマグロであるとして、これを規制しようと

意図したが、蓄養などで地中海のクロマグロの漁獲が伸びると、このなかにも西側のクロマグロが漁

獲されているとして、ヨーロッパ諸国を非難し始めた。

“東西融合論”に戻ったわけである。これが最近地中海を中心とする東側クロマグロがクローズアップ

されるようになった概略の経緯である。

実際のところ、東西交流がどの程度あるか具体的な数値はデータ不足で、いまだに不明であるし、資

源が1つか2つかも確定していない。科学委員会は一貫してクロマグロ調査のための予算をICCATと

して支出するよう要求しているが、実質的な予算はほとんど組まれていない。統計改善を含む科学的

知見の集積を図ることが急務であり必須ではあるが、それには、金と時間がかかる。私は一貫して、

現実的な有効な方策として、産卵期における漁獲規制の一層の強化が必要であると主張してきた。

これは単に地中海だけでなく、今回見送られた米加の沿岸海域にも拡大されるべきである。