第37回 太平洋のカツオをめぐる分布域縮小について

資源量が減少してくると、分布域が縮小し、その影響は分布の縁辺域で顕著になると考えられる。中西部太平洋のマグロ資源管理を行う国際機関(WCPFC)の科学小委員会(SC)でカツオの分布域(良好な漁獲を行い得る資源密度が存在する水域)の縮小(以下RC:Range Contraction と略記)に関する論議が続いている。カツオの主分布域である熱帯域とその分布の縁辺域にあたる日本近海の双方にカツオ漁場を持つ日本にとってこの問題は重要である。
RCをめぐる論点と今後の取り組みの概要を紹介したい。
発端
熱帯域におけるまき網によるカツオの漁獲量が急増し、これによって日本近海や沿岸に南方海域から来遊してくるカツオの資源量が減少しているという懸念を、日本はSCで繰り返し表明してきた。沿岸域の引き縄と竿釣り船による漁獲の減少が顕著で、カツオ資源の管理の強化、特に熱帯域におけるまき網の漁獲制限をWCPFCの年次会議で日本は主張している。カツオの分布の縁辺域での漁業を有するハワイやニュージーランド(キハダに関して)等も、RCに関する懸念を提起した。これを受けてSCで懸念の表明されたカツオのRCの実態を把握するための研究プロジェクト(Project67)が、SCの下で数年前から開始され、WCPFCの資源評価を委託されているSPCという国際機関(本部はニューカレドニアのヌメア)と日本が中心となり、米国、フランス等の研究者も参画して、共同実施されている。
実態把握の現状
このプロジェクトによる最近の研究進捗状況報告(WCPFC‐SC11‐2015/SA‐WP‐05)の概要を述べてみよう。RCに関する情報を得るために、まず、分布の縁辺海域における竿釣りや引き縄の資源量指数を日本、ハワイで比較している。この報告では南太平洋の縁辺域における延縄で漁獲されるカツオの資源量指数もオブザーバーの記録から取り出して比較している。日本に関する情報として、沖合域での日本の竿釣りの資源量指数は減少していないのに対し、沿岸の引き縄や竿釣りのそれは最近顕著に減少している。一方、ハワイの竿釣りの資源量指数や南太平洋の延縄によるカツオの資源量指数には、海域により増加するものと減少するものがある。
したがって、全体としてみるとRCが一貫して縁辺域で認められるとは言えないとしている。縁辺域の漁業で漁獲されるカツオのサイズが小型化しているかどうかも検討したが、小型化の傾向はみられない。
さらに、標識放流の結果を分析している。赤道域で放流したカツオの日本近海での採捕は殆どないことから、両海域間のカツオの交流は少ないとしているが、日本近海で放流したカツオは南方海域でかなり採捕されている。残念なことに赤道海域と日本近海での標識放流数は桁違いに赤道海域より少なく、全体のデータから見ると、今のところ両海域間の交流は少ない、つまり、RCを支持するという証左は標識放流からは確認できないとしている。
この他に現在資源評価に使われている統合モデルや生態系モデルによる分析もしているが、いずれの場合も標識データが海域間の移動についての重要な情報となっており、カツオが熱帯域のそれとあまり交流がなく、カツオの全体的なRCを示すはっきりとした結果は出ていない。しかしながら、生態系モデルの解析では、日本沿岸域の漁業はその沖合域の漁業より資源減少の影響を強く受けることを示唆しており、沖合の竿釣りの資源量指数が安定しているのに対して沿岸の引き縄や竿釣りの資源量指数が低下しているという日本近海における現象と一致していることは指摘されている。しかし、同報告書は、先に述べた種々の指標を用いた分析を総合的に判断して、太平洋のカツオの分布の縁辺域全体における一貫したRCは今のところは認められないとしている。
今後の展開
この報告書でも指摘している通り、今後のRCの分析に重要なのは、標識放流の情報の増加、特に熱帯域以北の日本近海及びその接続水域からの標識放流である。標識の海域別の採捕率にしても、圧倒的に漁獲量の大きい熱帯域で放せば、採捕はほとんど熱帯域に限られようし、逆に熱帯域から北上する個体は比較的小さな漁獲圧しか受けないため、温帯域での採捕の割合が低いのは当然で、これをもって熱帯域と温帯域の間には交流が殆どないとは言えない。
今後は日本のイニシアチブで温帯域からのカツオの大規模標識放流を何とか実現したいものである。一方、標識放流とは別に、漁業とは独立に、熱帯域と温帯域の間のカツオの関連性を調べる新たな研究手法も同時に行うべきである。この方法は耳石などを用いて、カツオの生まれた海域を直接特定する方法で、すでに大西洋のクロマグロ等でも使用されている有効な方法である。早急に太平洋のカツオのRC問題にも応用されるべきものである。