第4回 国際シンポジウム「水銀とセレンの役割」に参加して

 マグロ類などに含まれる水銀(有機水銀あるいはメチル水銀)が人間の健康に悪影響があり、特

に妊婦や乳幼児などは食べない方がいいという米国などで半ば常識化してる認識については、私は

大きな疑問をもっており、なんら問題はないし、むしろそのような敏感な人たちにこそマグロを食べさ

せる必要があるのではないかということを以前OPRTのニュースに書いたことがある。現在米国やカ

ナダでは水銀摂取の許容値が夫々1ppmと0.5ppmと定められているようだが、何でこんなことにな

るのか漠たる不満がこの30年ほど続いてきた。30年というのは、ちょうど私が水産研究所に入って

仕事を始めたばかりの1970年代にマグロ水銀が大問題になったことがあるからである。そのときセ

レンが水銀の毒消しになることをちらりと聴いたことがあったが、その後日本ではホローアップの研究

は聴いたことがない。その後、長らく置いて、先日米国で行われた少人数からなるシンポジウム(40

名程度参加)に出席する機会があり、この会議でこの件に関して、久々に明快なメッセージをもらい

大いに我意を強くしたので、皆さんにもそれをお伝えしたい。

 

 シンポジウムのタイトルは“水銀問題におけるセレンの役割に関する国際シンポジウム”であり、20

07年2月23日−24日の2日間、米国サンヂエゴで開催された。主催は国際生物無機学会であり、

この学会の会長はG.Shrauzderである。彼のこのシンポの趣旨説明から会議が始まったが、彼は、い

きなりこの問題は30年ほど前にすでに決着が付いていて、マグロの水銀は人間の健康になんら問

題は無く、EPAやDHAのことも考えると、むしろ積極的にマグロを食べるべきであると述べたのであ

る。彼のこの発言は、1972年にScienceに掲載されたH.E.Gantherの有名な論文に基づいている。

Ganther論文の趣旨は、マグロに含まれる水銀は海産魚類に多く含まれるセレン(セレニウムあるい

はSe)が化学的に非常に強く結合し無毒化されるというものである。また、彼は“日本人を見なさい、

有史以来大変な魚食民族で寿命は世界最長でかつ優れた知能をもっているではありませんか。マグ

ロなどの魚類に含まれる水銀が問題ないことを示すこれ以上の疫学的証左は無いでしょう”とも述べ

たが、これはまさに私が以前にOPRTのニュースに述べたことである。我意を得たりと思ったわけで

ある。水俣病やイランにおける水銀中毒は自然界ではほとんど起こりえないほどの極端な公害である

が、これ等の言語道断な事故が余りにも衝撃的であったため、水銀と聞くと拒否反応をおこすのは極

めて自然な反応であることは理解できるし水銀自身が猛毒であることも明らかである。しかし、その

後の外国における研究(セーシェルに関する疫学的研究など)では魚類に含まれる水銀とその魚を食

べることに関して健康になんら相関は見られなかった。グリーンランドのイヌイットの疫学的調査で若

干の悪影響が見られるようだとの報告があるが、彼らの主食は歯鯨(PilotWhale)であって魚ではな

い。この点は、後述するが大事な点である。

 

 続いて、9個の講演があったが、注目されるのは種々のマグロ類を調べ、全ての主要種で水銀とセ

レンの相対比でセレンのほうが多い(水銀/セレンの比が1より小さい)という講演であった(メカジキ

はその比がほぼ1)。つまり、これ等の種では、セレンが水銀を無毒化していると考えられる。この中

で先に述べたPilotWhaleの値は1よりはるかに大きいことが注目される(ただし、イヌイットは肉だけで

なく皮の油が大好物でこれにはセレンが多く入っているようである)。また、マウスを使った実験で、

ある程度の水銀を加え、セレンなしの餌を食べたものは、死亡したが、途中でセレンを加えたものや(

一度は病的になるが、セレン添加後に正常に生育)、最初から水銀とセレンを混ぜた餌で飼育したも

のは、最終的には、ほぼ正常に生育したという報告も興味深かった。このシンポの議事録が出ること

になっているので、心待ちにしている。最後に一言、このような研究は本来日本人、特に日本の水産

研究者が中心になってやるべきことでなかったのかという事である。こう思うと、一度は我意は得た

が、また不満が沸いてきた。おまけにもう一言、米国ではセレンのサプリメントが販売されていて、私

にこのシンポジウムがあることを教えてくれた友人は毎朝飲んでいました。日本でも最近セレンのサ

プリメントの人気が出てきたようですが、これはビタミンEとかCとかの吸収を高めるという利点がある

からで、魚を多食する日本人には水銀との関連では、西洋人のように必要はないでしょう。