第4回 「サメのヒレ切り禁止問題」

 ミクロネシアのポンペイではサメは食べない。サメよりもおいしい魚がたくさん獲れるからだと思う。WCPF

Cの科学委員会では、サメ類の資源状態のモニターも義務付けられており、南太平洋の島国の人たちがサ

メ類に関心がないわけではない。しかし、サメ資源をめぐって何が問題なのかについては、あまり興味がな

いようである。サメといえば、ポンペイでは素晴らしい木彫りのサメの置き物が土産に売られているぐらいし

か思い浮かばないのではだろうか。

 さて、中華料理などで珍重されるサメヒレ(フカヒレとも呼ばれる)の需要増加が、世界のサメ資源を壊滅

的に減少させているとして、サメヒレを提供してきたマグロ延縄漁業が非難の的になったことを覚えていると

思う。また、日本などのマグロ延縄の悪行の一つとして、「生きているままのサメからヒレだけを切り取り、ヒ

レのないサメ類を海中に投棄している」というデマまで飛び交った(実際にはサメヒレの切りは、必ずサメを

即殺してから行う。そうしなければ、サメにかまれたりして大変危険である)。

 マグロ延縄漁業がサメ資源に多大な悪影響を与えているか否かについて、これまで多くの論議があった

が、今のところ、少なくともマグロ延縄船が混獲する外洋性のサメ類については、そのようなことはないとさ

れている。サメ類といっても400種以上あり、今、資源状態が懸念されているのは、その中の沿岸性の大型

サメ類で、これなどはマグロ延縄の漁獲対象にはなっていない。

 サメ資源の減少が、マグロ延縄のせいだとする風潮はかなり弱まってきたが、サメ類のヒレ切りについて

は、その是非が論じられ続けてきた。その結果、最近、世界のマグロ資源管理委員会で相次いで、ヒレ切り

を禁止することとなった。

 具体的にどんな禁止かというと、従来のようにサメ類のヒレだけを切り離して保持したり、販売してはなら

ないということである。ただし、ヒレだけでなく、サメ肉も同時に保持する場合は、ヒレの切り取り、保持や販

売も認めるというものである。つまり、ヒレ切りする場合は、必ず残りのサメの魚体も保持しなければなら

ず、これまでのように、ヒレだけ取って、残りを海などに投棄してはならないということである。

 ヒレの重量はサメ類の体重の約5%に相当するので、5%条項とも呼ばれる。この規制の根幹は、ヒレだ

けを取って肉を投棄することは、資源の有効利用を損なうという点にある。確かに資源の有効利用は大切

であり、サメ肉の利用を図るべくいろいろな試みも始まっており、これは大いに推進されるべきである。

 しかし、日本などではサメ肉はカマボコやハンペンなどのほかには利用しない食文化がある。日本人など

がヒレだけ取ってサメ肉を捨てるのは許さないと言うのは、魚といえば、フィレーにされた白身しか食べない

多くの先進国の肉食文化圏の人たちに向かって「頭、アラ、内臓まで食べないのは、けしからん」と、東洋人

が非難するのと同じことではないか?もし、サメヒレが西洋の食文化の一つであれば、このような禁止条項が

受け入れられることはないと思う。

 この手の話をすると、ポンペイの人たちも、「その通りだ!」「お前のいうことはよく理解できる」と、同情して

くれる。同情してくれるなら、国際会議などでもっと日本の主張を支持してほしいと思ったりする。マグロ延縄

によるサメ資源の乱獲が否定されつつある中で、何とか延縄漁業を悪者に仕立て上げようとする試みとの

ねじれ現象がこの奇妙な決着となったわけである。

 水産庁への苦言になるが、この条項を受け入れる前に、困難ではあってももっと本質的な議論を世界に

向けて行ってほしかったと思う。心ある人々にはサメのヒレ切り問題の決着が、いかにおかしい事である

かは、必ず理解してもらえると思うのは私だけであろうか。(つづく)