第3回 「類をみないバナナの多様性」

 今の若い世代は知らないかもしれないが、私が子供だった戦後の一時期は、バナナがものすごく高価な

ものであった。フルーツパフェの上にひと切れ乗っているバナナを食べた時は、ずいぶんと幸せな気になっ

たものである。

 今どきバナナは安い果物の代表格で、スーパーなどの目玉になった時など、かわいそうなほど安値で売

られている。時の変遷を経て、バナナに関する認識は昔と今ではかなり変わった。今では世界ではバナナ

が果物としてだけでなく、加熱調理して主食あるいは副食として食べられていることもかなりの日本人が知

るようになってきた。何せ、1000万人が海外旅行に出るご時勢だから。

 さて、バナナとミクロネシアの関係であるが、こちらに来て、世界のどこの熱帯地方も同じで、いろいろな

バナナが売られているな、と思うくらいで、さして何も思わなかった。ミクロネシアのバナナのすごさを知った

のは、奇妙なきっかけであった。

 魚類や野菜など現地でとれる産物を主に販売している、ローカルショップと呼ばれる小さな店が島のとこ

ろどころにあり、そこでバナナも売られている。バナナは生では冷蔵がきかないので、高温多湿の外気にさ

らしたままの状態で売られている。

 青いバナナもすぐに熟して黄色になるが、店の一角にほとんど皮が黒っぽくなり、しなびたバナナがひと房

が転がっていた。きっと売れ残りで、廃棄するのを忘れているのだろうと思っていたら、ちゃんと売っている

のである。そして、ほかのバナナより少し高い。といっても、日本の感覚ではタダみたいな値段ではあるが。

食べられるのかと、店の人に聞いたら、もちろん食べられるとのこと。これを買って恐る恐る皮をむいたら、

中は赤みがかった濃い黄色の半ばトロトロ状態の果肉が出てきた。それをスプーンですくってひと口食べる

と、濃厚なバナナ風味のクリームのような甘い味である。後で分かったのだが、冷やしてライム(こちらでは

カラマンシーと言うが、東南アジアではどこにでもある小さな青いかんきつ類)の汁を絞ってかけて食べる

と、第1級のデザートとなる。

 このバナナの名は、カラチ(Karat)という。カラチを食べると、尿の色が黄色になることから、外国人や現

地の人の中には何か体によくないのではないかと疑って食べない人もいるようである。しかし、栄養学の専

門家によると逆で、これはカラチが大量に含む健康に良いビタミンB2が分解されて排尿されるもので、何ら

心配なく、大いに食べるべきだそうである。

 現地で知り合いになったローカル食の専門家にミクロネシアのバナナの話を聞いて、さらに驚いた。バナ

ナは1種であるが、500近くの品種があり、品種の多様性はパプアミューギニアやソロモン島が世界で最も

高いが、あまり食べない。これは尿が黄変するのが、マラリヤや黄熱病など何か体に悪いと思っているから

だそうだ。

 クロネシアには約50品種があり、みんなよく食べるし、ここだけにしかないバナナがいくつかあり、例のカラ

チも固有種であるとか。ローカルショップなどでは、いろいろな種類のバナナの写真が入ったポスターが飾

られていて、バナナはカロチンの宝庫でみんなもっと食べようとPRしている。このポスターはきれいで、よい

土産物になると思う。

 このカラチを日本に持ち込み、銀座あたりでアンテナショップで販売したら、きっとバカ売れするのではな

いかと思っている。だれかやらないものだろうか。 (つづく)

カラチバナナ。青いバナナ(左)が熟れてくると赤黒くなり、切ると中身は(右)のようになっている。