第3回 「世界の養殖マグロ、日本の養殖マグロ」

 ポンペイの人たちは、中トロやトロといった脂の乗ったマグロは食べたことがないと思うが、一度食べたら

病みつきになると思う。脂の乗ったマグロが好きなのは、日本人だけでなく、今や世界中のグルメが好むも

のとなってきた。今回は、南の島から当地では食べられない脂の乗ったマグロを思い浮かべながら、それ

に関する話題を一つ。

 世界中から養殖マグロ(蓄養マグロとも言う)が日本に向けて輸出されるようになり、回転寿司やスーパー

で頻繁に見かけるようになった。このため、高価なクロマグロやミナミマグロが養殖されるようになって、これ

まで庶民の口にはめったに入らなかったこれらのマグロのトロまでもが、割に手軽に楽しめることになった

からである。

 また、日本のクロマグロの養殖や完全養殖の技術・研究は世界一の水準にある。しかし、養殖マグロの増

加が深刻な問題を引き起こしていることも事実であり、喜んでばかりいられない事情があることは、あまり知

られていない。

 世界の養殖マグロをめぐる資源・管理などにかかわる問題について、この点に関して取り組みの遅れて

いる日本のクロマグロ養殖の現状を述べる。

 現在、世界のクロマグロとミナミマグロの生産の約70%程度が養殖マグロであると推測される。養殖の占

める割合がこれほど急増したのは、巻網船で漁獲した天然のミナミマグロを養殖イケスに活け込む技術が

10年ほど前に確立され、この技術が瞬く間に、地中海やメキシコに広がったためである(日本では養殖魚の

調達に巻網を使う方法は少なく、引縄での漁獲が主体)。

 この結果、地中海では、クロマグロの主要な漁法であった巻網船数は年々増加・近代化し、イケスの収容

能力は決められたクロマグロの漁獲量の3−4倍にまでなってしまった。ひどい話であるが、地中海のマグ

ロ巻網船の漁獲統計は、もともと存在しないに等しく、いい加減な漁獲統計しか出てこないのが現状であ

る。

 養殖が儲(もう)かるので、巻網船の漁獲物はどこでも引っ張りだこだし、クロマグロの国別割り当てがな

い国でも、大西洋マグロ類保存委員会(ICCAT)の加盟国なら、漁獲物を買い取り養殖ができる。おまけ

に、生きたままイケスに収容するので、これまでのように、市場に水揚げされたものから、研究者らが正確

な体長や体重などを記録できたのと違い、何尾・何トン収容されたかが不正確で、ごまかしが多く、大西洋

では、信頼できるクロマグロの資源評価ができず、大規模な違法漁獲や取引も懸念されるという重大な問

題が生じている。

 このため、ICCATでは、すべての取引されるクロマグロについて、漁獲から最終販売までの履歴をつける

ことや、養殖に関するガイドラインを設け、活け込み時の魚の個々の大きさや総量などの詳しい報告を義

務付けている。これらの措置の順守は十分とは言えないが、ICCATはそのつど、対応をしてきた。

 一方、日本の現状は、これに比べるとまことに心配である。最近やっと養殖を含む太平洋クロマグロ漁業

の実態把握の“あり方”についての論議が始まったばかりである。

 今のところ、養殖されるクロマグロの量、大きさなどの正確な統計はない。また、餌魚資源、養殖場の環

境や社会経済的影響などに関するいわゆる総合的な環境評価もないし、養殖のガイドラインなども導入さ

れていない。

 ICCATで養殖クロマグロの厳しい管理の導入を率先して要求してきたのは日本である。日本のクロマグ

ロ養殖の生産が、1万トンの大台に乗り、世界一のクロマグロ養殖国になるのは、昨今の強いクロマグロ養

殖志向からして時間の問題であろう。今でも遅れをとっているこれらの問題が深刻化しないうちに、解決に

向けて、早く実効ある手を打つべきある。 (つづく)