林 繁一 さん (静岡県在住 )

 まぐろ延縄漁業を離れて、18年になります。お世話になったこの産業の苦境は何時も

忘れることはありませんが、現状はOPRTニュース・レターとこのところしばしば一般紙

が取り上げるトピックスで知る程度、素人となった元水産資源研究者の感慨といった程度

にお受け取り頂きたいといった程度の一文とお受け取りください。

 この30年は時代の激動を感じさせてくれました。まぐろ延縄漁業を含む我が国の遠洋

漁業が急速に拡大できた五つの条件、@ 強い需要、A 優秀で豊富な労働力、B十分な

資本と高い工業力、C安い燃料などの資材、D自由な操業水域は40年前までに次々と失

われました。それでも洋心も利用できるまぐろ延縄漁業は他の遠洋漁業に比べれば将来性

が残されているといわれてきました。最近になって僅かではありますが、フランスなど欧

州諸国の中でも遠く太平洋でこの漁法による試験操業が試みられています。我が国ではか

っての圧倒的というわけにはゆかないかも知れませんが、他国に比べて高い技術力を持っ

ていると考えられます。国内の水産物に対する需要は落ちたとはいえ、健康指向は強まる

一方、目が怖いとか、出刃包丁がないといった、海の国の民としては意外な傾向は広まっ

ている現在でも、原則として切り身、刺身として家庭に提供されるまぐろは他の魚に比べ

て有利な需要を保っています。国内市場を巡っては台湾船の進出は問題ですが、かの地で

も食習慣の平準化に伴ってまぐろの需要が強まっているのではありませんか。遠洋漁業国

への制限の問題は、どの進出国にとっても同じ条件、逆に日本周辺の漁場については垣根

となります。労働力が逼迫し、燃油などの原料費が高騰した現在、漁業への制限を魚価に

転嫁する時代を予想できないでしょうか?まぐろ延縄漁業は通例少なくとも一回は卵を生

む機会を与える資源に優しい漁業であることを今まで以上に強調したいものです。

 巨大な富を持つ人々は時として、自己中心的な主張を押し通そうとします。近頃、採捕

漁業を「悪」とする欧米の「理論」が罷り通り、我が国でもそれに迎合する「知識人」が

散見されます。国際的に認められた調査捕鯨を暴力的に妨害する団体を歓迎するアングロ

サクソン国(石川氏、鯨研通信435号)を「価値観を共有する」と認める政治家が権力の

中枢におられるのです。そのようなオーストラリアに漁獲成績報告の問題を指摘されたの

は大層残念なことでした。しかし翻って見ると我が国の「まぐろ延縄漁業漁獲成績報告

書」が世界のまぐろの研究とそれによって齎される管理技術の発展に果たしてきた功績を

もっと社会全体に知らせたいものです。この報告書は漁業に携ってこられた方々の絶大な

ご協力がなければできなかったということを私は機会ある毎にいい続けてきました。食糧

不足に悩む10億の人々を養うに足る玉萄黍を畜産に振り向けて、採捕漁業を非難する

人々の自己中心的な考えをもっと強く指摘したいと考えてきました。その上、原油価格の

急騰に伴って食糧を使って富を得ようとする一部先進国の指導層には、延縄漁業を非難す

る資格はないはずです。

 この背景を考えるとまぐろ延縄漁業の未来には明るい展望が開けるはず、現在「天の

時」は味方していないように見えますが、環境問題が本質的に解決される将来、必ずや再

生の時代が来ると信じています。