「思い出の親父のマグロ料理」 井上 義一 さん (福井県在住 通訳)

 私たち家族は、おすし屋さんへ行っても、赤味、中トロ、大トロを始めから注文し、食

べていくほどマグロが大好きです。

 子供の頃、父親が食通で、自ら、そばやうどんなど打って家族に美味しいものを食べさ

せるのが、楽しみのような人でした。休日に足の筋肉をぴったり浮き上がらせるGパンと

Tシャツを着て料理をする、長身で男らしさと繊細さを持つ親父を思い出します。

 ある日、マグロの大きな頭を買ってきて、兄弟二人に、

 「お前ら、この頭の味、一度食べたらたまらんぞ」

 微笑みながら言うのでした。私たち兄弟は少しグロテスクで目が怖いと思いながら、親

父のすることを見ていました。普段、ご飯を炊くカマドの上に鉄の串を数本とうして、そ

の上にマグロの頭を乗せ、焼き始めました。それを横にしたりして、まんべんなく焼ける

と、目の周りの身と目玉を取り分け、

 「ここが一番美味いのだ」

 と言うと、私たちに食べるよう勧めるのでした。皆、嫌がってさすがに目玉は食べなか

ったのですが、親父は、旨そうに自慢げに食べるのでした。私たちは、その周りの身を食

べ、その食感の良さ、脂の味が美味しいと感じたのでした。

 また、父はマグロの切り身を生姜醤油に漬けておき、翌日の夕方、それをパックから取

り出し、七輪にアミをのせて焼くのです。そして、私たち兄弟を、煙舞うその周りに呼ん

で、「おい、これはな、マグロがくれたお土産だ。味わって食えよ」焼きたてをフウフウ

息をかけながら、ご飯といっしょに食べました。父は、満足そうな微笑を浮かべていまし

た。

 そんな父も私が高三の時亡くなり、毎年お盆の御墓参りには、マグロの味と共に親父が

思い出されるのでした。