「朝ごちそう」 星野 和子 さん (群馬県在住 学生)

 私が一メートルと三〇センチくらいの背丈だった頃。わが家の朝ごはんは、ほぼ毎日お

米。みそ汁も漬物も佃煮も、目玉焼きも苦手だった私。ご飯のおかずになるものがなくて、

しょっちゅう困っていた。好きなおかずは、ウィンナー、甘い玉子焼き、鮭フレークの三

つだったが、食卓にはなかなか登場しなかった。

 母は面倒くさがりだったが、主食が米以外の朝ごはんも時々つくってくれた。クレープ、

ホットサンド、安倍川もち、ホットケーキ。それにホットミルクやココア、ミルクティー

などがついた。

 この軽食らしい朝ごはんも好きだったが、それより楽しみだったのが、朝ごちそうだ。

普段の朝ごはんには出ない食べもので、ちょっとごちそうなもの。例えば、昨晩のハンバ

ーグのタネの残りを焼いた小さなハンバーグ。きのうよりぽってりしたカレー。味のしみ

たおでんの玉子。しっかりした味で、ごはんとぴったりなもの。今でも楽しみにする味だ。

 中でも私のごちそうだったのは、マグロを醤油づけにして焼いてものだ。父が晩酌で食

べきれなかったり、たくさんの折詰のごちそうに入っていた、マグロのお刺身。それを醤

油とみりんにつけて、朝焼く。ごはんが朝から何杯もすすむごちそう。

 大人の食べもので、華やかな場所にある食べもの。それが子どもの頃の私が、マグロの

刺身に対して持つイメージだった。その赤いつやつやな食べものを朝から食べる贅沢な気

分。火を通すことで、その赤いつやつやが地味な姿になってしまうもったいない気持ち。

その二つの気持ちを感じながら、ごはんとマグロをぱくぱく食べていた。