『山は富士、魚はマグロ、家庭の魚食力をつけよう』


〜〜回答編〜〜

質 問

にぼしの頭とはらわたをとってダシにしていましたが、よくないということを聞いたことがあります、本当はどうでしょう。

回 答

お、これは初めて「ダシ」に関するご質問です。

「知っているようで知らない」、
「めんどくさいようで実は簡単」、
「ダシの素と変わらないようでも本物はすごくおいしい」、
これが「ダシ」の真実、というものであります。

ダシとひとくちに言いましても、魚はもとより、野菜や肉、そして米(!)からも、それぞれのダシがとれるわけで、すなわちダシとは、「食物から抽出した水に溶ける旨味成分」ということになるわけで、まさに“出”た“汁”と書いてダシ!。となれば、それはもうべらぼうな種類のダシがこの世には存在するのだなあ、と感慨を深くするところであります。が、ここで一気に述べるのではキリがありませんから、今回はダシ用の乾物、特に丸のまま乾燥させた小魚、「煮干」に絞ってお話してみましょう。

とはいっても、煮干にだっていろいろありますねえ。ご存知?
一般的に煮干といえば、カタクチイワシやマイワシの小さいのや大きいのを加減した塩水で茹でて干したもの。そのほか同様の方法で、トビウオの小さいのを干したものを「あご」と呼んでダシに用いますし、そのほか、九州のうどんには欠かせない小アジや小さなカマス、親指くらいのスルメイカまで、姿もいろいろ、味もいろいろで楽しいものです。味の出そうな小魚を塩水で煮て干せば、これ全てが煮干となりますし、ごく小さな煮干をザルにとって、しばしたぎった熱湯をかけ、このままたっぷりの大根おろしと醤油でオカズとするのも、美しくつつましやかな食卓の一品であります。

さて、煮干した小魚でダシをとる場合、頭も骨もエラも内臓もすべてついているわけですから、おいしい濁りのないダシをとるには、いくつか注意が必要です。

第一に、加熱して干して太陽に当てた魚は脂が酸化しますので、頭と内臓を取ってしまいます。第二に、生臭みを出したくありませんから、水から一気に加熱し、味が出たら速やかに煮干を取り出してしまいます。第三に、風味が落ちやすいので、一回ごとに使い切りましょう。

よく、料理本などに、「頭と内臓をとった煮干を前の晩から水に漬け、、、」ですとか、いつだったか何かのテレビ番組で、「頭も内臓もとらずに水につけたほうがいいダシが出る、」といった報道がありましたが、僕はまったくそうは思いません。なぜならば、上記3原則、すなわちこれは、素材の摂理、しくみ、であり、いくらいろんなことを人間がやろうとしても、しくみ上無理があるからには、それは無理だからです。もとより煮干は脂の少ない小魚を用いるのですが、それでも脂を多く含む頭からは脂の酸化した臭み、内臓からは消化管内の雑菌が干された後の成分から出る臭みがあることは明白ですし、長時間も水に魚肉を浸せば、雑菌の繁殖によって臭み成分が出てくるのは当たり前というもの。

この際ですから、臭みには三種類あるということを覚えておいてください。@水に溶けているもの、A脂に溶けているもの、B蒸発していくもの、の3つです。これら3つを取り除くためにいろいろ工夫してやればいいのです。具体的には、以下のとおり。ここでは代表的なカタクチイワシの煮干を使ってやってみましょう。

【すごくおいしい煮干ダシのとりかた】
@ 煮干の頭と腹をちぎり捨てる。新鮮な煮干なら、頭はとりながら食べてしまってよろしい。
A 小さい煮干ならそのままでいいが、大きな煮干は指先でつぶしてタテに割っておく。煮干はまとめてこのように下処理しておいて冷凍保存すればよい。冷凍することによって酸化を遅らせることができる。
B 鍋に水を張り、下処理した煮干を適宜入れ、強火とする。古くなって少し匂いが出ているようなものは、鍋で手早く乾煎りして臭みを飛ばしてから水を注ぐ。
C 沸騰したらアクをとり、すばやく火を小さくする。静かにふつふつとたぎる程度。このまま5分ほど煮ながら、アクをとっていき、煮汁が少し黄ばんだら小さじ1杯ほどの日本酒を加えて火を止める。
D ザルで漉してもいいが、家庭ではめんどくさいので箸で煮干をつまみ出す。ダシがらは大根おろしと醤油で食べてもいいし、佃煮にしてもタンパクとカルシウムの補給によろしい。

さあ、以上です。
要は、「酸化した脂や雑菌の発生源を取り除き、水に浸してから雑菌が繁殖する間を与えず一気に加熱し、加熱し過ぎによって脂が酸化するのを防ぐため火を落とし、それでも残る雑味を日本酒の有機酸で分解し、ダシをとり終えたら速やかにダシがらを除く。」というのが、ここでの“しくみ”。

というわけで、ご質問の、「頭とハラワタをとってダシをとるのはよくないのですか」については、とんでもない、それでケッコウ!
加えて、ここでお伝えしたやりかたをもって、おおいに煮干ダシの醍醐味を味わっていただきたい。ダシといえばカツオ・コンブが主流かもしれませんが、そこは適材適所。味噌の種類や具の取り合わせによっては、これは煮干でなくちゃね、というものが、けっこうあるのを発見いたしますと、俄然、楽しくなってくるというわけですのでヨロシク。