『山は富士、魚はマグロ、家庭の魚食力をつけよう』


〜〜回答編〜〜

質 問

OPRTのセミナーで、刺身マグロは「巻き網」より「はえ縄」で獲られたものの方がおいしいと聞いたことがありますが、理由はなぜでしょうか?

回 答

こりゃまた、鋭い質問が来ちゃったねえ!さすがOPRT賛助会員さん?、勉強熱心ですねえ。
ご質問の件。まき網とはえ縄では、刺身としてマグロの肉質がどう違うのか、ということですね。
それでは、漁法の違いと魚の味について、3つのしくみを説明しながら比較してみましょう。

【しくみ@】
魚の味と肉質は、獲るときのストレスに反比例する。つまり、漁法によって魚にとってのストレスが大きいほど肉質は悪くなる。逆にリラックスするほど筋肉中の疲労物質(乳酸)が分解され、エネルギー物質(ATP:アデノシン三リン酸)が再び蓄えられるので、肉質も味も良くなる。このATPこそ旨味の重要な構成要素であり、また、筋肉中に乳酸が残っていると、肉質は白濁する。
●まき網
大群を網で巻くため、網に入ってから船上に引き上げられるまでずっとストレスがかかった状態。しぼられた網の中で魚の体は擦れ合い、船上に揚げるまで暴れ続け、あるものは身がつぶれたりする。結果として、まき網で獲れたマグロは、打ち身による血栓が筋肉中に生じたり、身に透明感がなく灰色がかっていることが多い。また、暴れ続けたために体温が上がり、自分の温度で肉が生焼け状態となる「ヤケ」を生じる場合もある。
●はえ縄
マグロは自然に餌を食って針に掛かり、はじめのうちは驚いて暴れるが、次第に慣れてきて、長い縄の届く範囲で自由に泳ぎまわっているので船上に引き上げられるまでのストレスが少ない。結果として、身に透明感があり美しい赤色となる。ATPの分解による旨味成分も多い。

【しくみA】
魚の味と肉質は、締め方(殺し方)と、そのあとの処理(血抜きや神経抜き)・保存方法(冷蔵・冷凍方法)で変わる。
●まき網
網から取り上げたマグロは一度に大量に魚倉中の海水氷に落とされる、いわゆる「野締め」。急な冷却によって苦悶死するため、ここでも筋肉が疲労して肉質が低下する。酸化・変質しやすい血液や、細胞の自己消化等を促進する神経は体に残ったまま。従って、血液による酸味が強く、品質が劣化しやすい。
●はえ縄
一尾ごとに船上に引き上げられたマグロは、眉間からスパイクを入れて即殺する、いわゆる「活け締め」。脳を壊すことによって体の動きが止まるため、筋肉疲労がほとんど起こらない。続いてエラと胸鰭脇に包丁を入れて放血、眉間にあけた穴から神経抜きが施され、これを急速冷凍するため、肉は保存性が良く、臭み成分も生じにくい。

【しくみB】
魚の味と肉質は、魚の季節的な健康・栄養状態(たとえば魚の大きさや産卵の前と後の違い)によって変わる。
●まき網
まき網は群れを網で巻く漁業であるため、マグロがまとまった群れをつくる5キロ程度までの未成魚期、あるいは産卵期に操業が集中してしまう。小さいマグロは筋肉も脂も十分ではなく、マグロ特有の甘酸っぱい香りに欠ける。また産卵期のマグロは、産卵後はエネルギーを使ってしまうため、やせ細り、肉質は水っぽく、疲労物質に由来する酸味が強い。
●はえ縄
肉質が良い時季と海域を選んで操業するので、魚の健康・栄養業態が良いため、比較的品質が安定している。健全な魚には健全な味がある。

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いかがでしょうか?
以上が、まき網マグロとはえ縄マグロの味が違う理由です。漁法によって、こんなに違うんです。
これらの漁法以外にも、沿岸の定置網などでもマグロが獲れており、獲れる量が少なく扱いが丁寧なので、品質が良いものとして喜ばれています。

それともうひとつ。

最近では、大型まき網が日本の沿岸、たとえば日本海などで、これから親になろうとする小型のマグロや、産卵の最中にある親マグロを大量に巻いて獲ってしまうといって資源問題にもなっています。
ですから本当は、巻き網で獲るべきではないと言いたいところですが、現実には、クロマグロで言えば、東シナ海から対馬、日本海西部能登沖にかけての冬〜春のヨコワ、夏の日本海山陰から佐渡沖にかけて接岸する産卵群、三陸沖の成魚が、時期は限られますが手頃な値段で出回り、消費者には喜ばれています。が、現状のように無差別な獲り方をすれば、せっかくの少ない資源をつぶしてしまうことになりかねないということも覚えておかねばなりません。

要すれば、一度に大量に獲れば品質は落ちますから、薄利多売となり、資源に影響も出る。
沢山は取れない漁法だけれど一尾ずつを大切に扱い価値を高める努力をすれば、お客様にも喜ばれ、将来もおいしくマグロを食べ続けることができるというわけです。漁法を通じてサカナと人間の調整を図ること、これを「資源の持続的利用」と呼んでいます。